医師の中で、どのレベルの論文をどれだけ書いたかもひとつの大事な実績となります。ドラマとかを見てると、論文書いている医師のイメージって微妙ですよね?(笑) 必ずといっていいほど脇役で陰険、日の当たらない存在。もしくは主人公の臨床医の邪魔する存在として描かれています。
確かにそういった一面はなきにしもあらずですが、臨床をより深く学ぶには必要なことで、専門的な診療をできるようになりたいと思ったら避けて通れない道でもあります。専門医の資格を取るためにも、筆頭論文(自分がメインで書いた論文)何本以上のように受験資格として決められています。
そんな避けては通れない論文の執筆ですが、初めはやっぱりめっちゃ大変です。ただ闇雲に書いているだけではアクセプト(採用)までたどり着けません。ここでは基本的な英語論文の書き方と、ちょっとしたコツなどを解説します。
因みに、今まで私が執筆した論文はインパクトファクター2から7あたりです。インパクトファクターは論文の質を比較するひとつの指標です。単純に比較はできませんが、産婦人科としてはそれなりに健闘している方だと思います。それ以上を目指している方でも英語論文の「型」は変わらないので、参考にしてもらえたらと思います。
Contents
準備、心構え
深追いしない
研究を始めるに当たって、見通しは重要です。ある程度データを集めて、その先に論文化できる結果があるのかを見極める必要があります。研究で立てた仮説が全くのハズレということは往々にしてあって、ハズレの仮説をいくら突き詰めたところで、出てくる結果はハズレです。厳しいようですが、時間は有限です。時には今までかけた労力を全部捨て去って振り出しに戻る勇気が必要です。
差がないことが分かるというのも大切な過程ではあります。
一発で仮説が当たるのは珍しいと割り切って新しいテーマに移ることも検討しましょう。
ソフトを使うこと
EndNoteは絶対必要です。これがないと、まずまともな論文は書けません。
参考文献を管理するソフトで、ドラッグ&ドロップで引用符を付けて最後に出展を載せてくれます。論文を書いていると途中で引用を追加したり削除したり順番を変えたりと色んな操作が加わります。数十本の論文を手動で管理していたらそれだけで時間がいくらあっても足りません。
また、PDFも一緒に保存しておけるので、引用文献の管理や見直しもスムーズにできます。
これから論文を書き始める方で、まだソフトを購入していない方は必ず購入しましょう。
論文の構成
多くの場合、Abstract → Introduction → Materials & Methods → Results → Discussion → Referenceの流れとなっています。書く順番としては書けるところから書いていきますが、最後にAbstractは間違いないです。全体の要約になるので、全文が完成もしくはほぼ完成した後に字数制限に沿って必要な分量でまとめていきましょう。
僕はだいたい、Introduction(情報収集しながら、レビューを読む)
→ Materials & Methods = Results(対応関係にある、Resultに対してMethodがある)
→ Discussion(Resultsを受けて、読者と対話、言い訳)
→ Abstract(全体見てまとめる)
の順番で書いています。もちろんReferenceはEndNoteお任せです。
ここからは項目ごとに何をどのように書くかを見ていきます。
Introduction の書き方
ここでもまず構成を考えます。
- 背景
既に分かってること、前提となる事実を書く。レビューを引用する手は良く使います。
ex)病気の疫学、治療法、治療成績など - 課題
みんなが直面している問題点、分かっていないこと。
みんなコレ困ってるよね?解決できたら嬉しいよね?ということを書く。
ex)この病気は治療が難しい、診断が難しい、予後が悪い、予測ができないなど - 研究の目的
課題を受けて、この研究ではそれをどのように解決するかの宣言。
こうしたら解決できるんちゃう?これ使ったら上手くいくんちゃう?という仮説立てやってみたぞというアピール。
ex)この遺伝子・タンパクを調べれば診断できるかも、予後が分かるかも、この方法なら治療できるかも、など
Materials & Methods の書き方
方法は行った解析をResultsの順番と対応させて書いていく。
だいたい過去の文献と一緒になってしまうので、丸コピにならないように注意。
論文によっては必須項目があったりするので要項をチェックする。
初心者あるあるがMaterial & Method、Resultと三単現のsを抜かしてしまうこと。
方法や結果が一つだけ?と、ちょっと恥ずかしい。もちろん僕もやりました(笑)
Results の書き方
- なぜこの実験や介入をしたかは必要最低限で簡潔に
- 自分で出した結果のみを記載
あくまで客観的な事実のみで自分の考えは書かない。結果を受けて考えたことはdiscussion - 原則は過去形
実験や介入、調査は過去の事実となるため - 図表を中心に組み立てる
まず図表を作ってから、その意味を説明するように文章を書いていくと構成しやすい
Discussion の書き方
Discussionは読者との対話。読者の疑問を文献的な考察で潰していく。
ここでも構成が割と重要になるので解説します。
- まず結果の要約で始める
Discussionから読み始める人もいるみたい。読者への配慮。 - 研究の良いところ、先行研究と比較
ここがすごい、価値ある!って言う主張。
・サポート文献を引用して、正統性を強化。(違うアプローチで同様の結果が得られてるから正しいよね)
・違う結果の文献を引用して反論。(この論文とはここが違うから違う結果だった、僕らの方が良くない?) - Limitations(研究の限界)
自分の論文に足りないところ、改善点をしっかり述べる。
どんな論文でも穴はあるもの、それを分かった上で主張してるんですよ。というアピール、言い訳。
これがないと自分の論文に対する批判的吟味がないとみなされてしまいます。
ただし、limitationは投げっぱなしにせず、できるだけ回収することも大切。
「ここが欠点だけど、こういう工夫をして影響小さくしてるよ」「こういう論文もあるから影響少ないはずよね?」とか、今後の課題として「将来的には~の様にして改善する」などの前向きな姿勢が必要です。 - Conclusion(結論)
必須のように思われるが、そこまでの論調がしっかりしていれば実はどっちでもいいらしい。意外と最後のまとめ感がない論文も結構あります。ただし、ここまででしっかり論理構成ができている場合のみ。僕は書くようにしてます。
投稿前の注意
投稿規定を確認
SubmitするJournalの最近の論文を見てチェックするものやりやすい方法ですのでたくさん見て参考にしましょう。ただし、字数制限や図表の保存形式、サイズなど、投稿規定を読まなければわからないことも多いです。また、投稿規定は随時変更されますので最後はちゃんと投稿規定の原文を読んでしっかり確認しましょう。
剽窃ソフトでSimilarityをチェックする
剽窃ソフトを使って適宜similarityをチェックしましょう。自分の書いた文章がどれくらい他の論文と一致しているか、似ているかを確認します。similarityが高すぎると、盗作と疑われたり、場合によっては所属機関から論文が出せなくなるペナルティーもあるようです。similarityが高い場合は表現の変更や文章の書き換えを検討しましょう。
おわりに
ここまで書いたのは、あくまで一つの「型」なので全くこの通りに書く必要はありません。自分の考えで付け足したり、削ったり、順序を変えたりしてより良いものに整えて行きましょう。
今現在、論文執筆に苦労されてる方や、何から始めていいかわからず途方に暮れている方のために、少しでも力になればと思います。参考にしていただけたら嬉しいです!
一緒に頑張りましょう!
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